彼女さんはテレビが好きだ。僕は観なくてもかまわない。
一週間に一度程、彼女は実家に泊まりにくる。
ホコリをかぶった、うちのでかいブラウン管で一緒にテレビを観る。
なんかのドキュメンタリーでADHDとアスペルガー症候群の特集してた。
彼女が嘆息をもらす。あぁ…あぁ…
「ねぇ。前言いよったけど、これの事?」
「そうだよ。俺多分これなんだよ」
「でも診断受けたわけじゃないがやろ?」
「うーん…なんとなくわかる。簡単なテスト受けたら引っかかるしね」
そうなんだ。自閉症のスクリーニングテストなんて、ただの問答。その気になれば満点だってとれるだろう。思い当たる節は多々ある。
なにより健常か障害かのボーダーは「社会生活がスムーズに送れるか」でしかない。治す事もできないし、ただ、受け入れて善処するよりない。
「それで、人を幸せにできるが?」
彼女の言葉が垂直に突き刺さった
「…精一杯努力する」
最近よく喧嘩する。喧嘩と言っても僕が一方的に文句を言われるだけだけど。
洗い物のやり方がマズかったとか、そんな些細な理由で彼女は怒りだす。
その声が炎天下オクラを穫り続けて、茹だった頭に嫌に響いた。
「怒られてばっかりやなぁ。良いとこなしかねぇ」
半ば抗議の意味を込めて言ったその言葉に、彼女は切れて、無言で部屋に帰ると荷物をまとめだした。
「ちょ、ちょっと待って。なんで帰るの」
「もうえいやん」
もう二度と会わない勢いだ。待って、えいけん、進展の無い押し問答が続く。
「なんでちょっと言うただけで、そんなに言われないかんがよ!まともに受け止められたら、なんちゃ言えんなるやんか」
「じゃあ適当にハイハイ流しておけば良いの?真剣に受け止めてるから凹みもするやん。なんとかしようとしてるんよ。誠意よ。」
「ネガティブな人とは付き合えん。私がネガティブやけん。明るい人じゃないといや!ウジウジ考えて鬱になられると思うたらゾッとする!」
「いやいや!スゴイ前向きに考えようやん。うじうじなんてしてないしてない!」
出るわ出るわダメ出しの嵐。
「どっかで人を馬鹿にしようでね」
付き合いだしてからは男友達からの電話をとらないようにしてるようだが、ある日あんまりしつこいんで取ったという話があった。
「その人色黒?」
「まぁ」
「サーファー?」
「そう」
「相談にのるぜ!って言ってた?」
「言ってた」
「そんで泣かされたら言えよ、俺が殴りに行く!とか言ってた?」
「言いよった」
「わかりやすい人だなぁ…」
だとか、テレビでストリート系の、ベロ出してピースサインしてるような全然ピースじゃない人をみて「うわぁダメな人や」などと言った事が許せなかったらしい。
「馬鹿に?馬鹿にしてる?そういう人苦手だし、怖いだけよ」
「その人らぁにも色々あるがよ!」
それはまぁそうかもしれん。どっかで人を馬鹿にしてる、のかも。
「なんていうか未熟よね。甘いでね。優しいように見えて、プライドが高くて我が強くて、絶対に自分の意見を曲げんやん。そのくせ執着がないやん。そんで軽くこうしたら良いよっていうやん。冷たくて思いやりがない。全然人の気持ち考えてない。相手の立場にたって考えてみたや。いちいちそんな事で怒るなって言うかもしれんけど、怒られる事をする方が悪い!私スゴイ頑張りようがで!しんどいしお金もかかるし、実家やけんスゴイ気をつかいようが!なのになんで、こんな扱いを受けないかんの。全然満たされんが!考え方が違いすぎる。女子会で友達に言うても、やめちょきやって言われる。そんなに辛いのに行く事ないって。私だって付き合いたいって言う人何人もおるんやから」
もうズタボロです。だけど多分その通りなんだろう。後は最近少し太っただとか部屋が汚いとか。なぜ僕の方が攻撃されていたはずなのに、こんな事になっているのか。僕の気持ちなんて関係ないみたいじゃないか。私は好きなように言うけど、あなたは文句言うのも許さないような…
考えうる範囲で精一杯の事はしてきてるつもりだ。どんなに疲れていても寝るまで数時間は電話する。喉が渇いてそうだったらジュース持ってくるし、30分マッサージしたりもする。
僕は文句を言われるばかりで文句を言った事もないし、自分の意見を通した事も無い。自分が正しいとは思わない。簡単に軽く言ってるようにみえるかもしれないが、それはあらかじめそういう答えを用意してるだけで、考えていないわけじゃない。最善だと思っているんだ。
だいたい甘いってなにさ。たかだか数ヶ月で結婚だなんだ。実家暮らしは嫌だって言うんで離れを建てるって決めてさ、銀行に金借りてまで。そんで自分は金貯めるわけでもないし、全部僕任せで僕待ちじゃないか。そんでその理由が「女の子だから」
女子会って大層な場所で、よってたかって見ず知らずの男のダメ出しを繰り広げるのが、成熟した大人のやる事だとは到底思えない。それに優しげなそぶりで近づいてくる男のほとんどはただ、やりたいだけだ。
だけど…何も言えなかった。たぶん僕が悪いんだろうなとは思う。
いちいち頭でなぞっても、たぶん共感ができてない。だから人の気持ちがわからんと言われるのだろうか。
「言うたやん。私は弱いの!やけん優しくしてくれなきゃ嫌!あんたは絶対に治らん!」
涙を流しながらそう言われて、ハッと気づいた。
どんなに理不尽でも、弱さというある種の特権で武装されようとも、例えそれらを受け入れて誓約書に押す拇印が血の涙であろうとも、女の子泣かしたらそこで負けなんだ。
農作業が忙しくてろくにデートにも連れていけず、金が無いだろうから良いよと誕生日にプレゼントも買わず、休みの度に二時間かけて遊びに来て、農業を手伝ってくれる彼女。
その頬はオクラで赤くかぶれていた。大好きなネイルも最近してないなぁ。
僕はなんて情けない男なんだろう。愕然とした。
人を幸せになどできるのだろうか。今、この状況を乗り越えても、またこういう事があるだろう。その度に彼女は苦しむんだろう。完璧な人間なんていない。気持ちがわかるエスパーでもない。そんなのはわかりきってて、精一杯歩み寄っても、こんな自己完結型の人間が誰かと一緒に暮らすなんて無理じゃないか?人と関わるのがそもそも無理なんじゃないか?これまでと一緒さ。いつも通りさ。
人間そっくり。プラスチック。できそこない。
だとしたら、彼女を楽にさせてあげるのが、僕にできる唯一の事なのかもしれない。ドンゾコの感情が襲う。
泣くものか、泣くものか。作り物らしくさっぱり淡々と別れを切り出そうじゃないか。これ以上情けない男になんてなりたくはないんだ。
テレビの上の置物に目がいく。タオルで作ったらしい。
付き合って五ヶ月になるなぁ
泣くものか!泣くものか!
すると鼻水が出た。サラサラした純粋な鼻水だ。
なんだこれは。カッコ悪い。
だれかこの場面における鼻水の意味を、村上春樹的な乾いた文章で説明してくれよ。
よりによって鼻水、はなみずだ!
情けない男の鼻水だ。なんてこった情けない。
少しは感情があるって証左が、この情けない鼻水だ。
執着と感傷と愛情の鼻水だ。絆の証だ鼻水だ。
ああ!
まぁ。。。
精一杯頑張って悪いとこ治していくんでと、その場はなんとか収まりました。
だけど不満ってヤツは溜まるものらしいですよ。忘れないらしいですよ。
その後も部屋にエアコンが無いので、夜寝苦しかったらしく「帰る」と言い出したり。
彼女の車がボルトを踏んでパンクして、それをイエローハットで治してもらったから「大丈夫」とポジティブに言ってみたら、軽々しいと切れられ。
地デジ化対策でチューナー買って、喜んでくれるかと思ったら「ホントにそれで大丈夫なが?ちゃんと店の人に確認したが?なんでそんなに安いが?」と疑いの眼をむけられ。
エアコン買うと言ったら反対したのは彼女である。
チューブレスタイヤの修理なんて、ちゃんと治せばゴムが自己融着してよっぽどの事がないと壊れたりしない。これでもオフロードバイクで散々やってきたのである。
家電もそこらへんの人よりは詳しいつもりでさ。ネットで最低価格だって調べるよ。簡単なパソコン教室なら十分できるのである。
ようするに信用が無い。聞く耳持ってない。否定と疑いが先攻しちゃってます。どうしたものか。いったいあなたは僕の何が好きなの?今日も不機嫌そうに黙りこくって電話が切れた。
介護士の仕事も大変で疲れとストレスが溜まっているのもあると思う。それで休みの度にこっちに来てもらうような生活を続けていたら、悪循環になるばかりで上手くいくものもいかんのじゃないか。
どうしたら良いんだろう。みんなどうしているんだろう。彼女の言う通り、ほかのみんなは立派な人間で成熟した紳士で、僕は未熟ながきんちょなんだろうか。
俺は俺はとか、私は私はとか、相手に理想を押し付けて上手くいくんでしょうか。
ああ、そういう事言うだけで、もう自己肯定を求めてる。こんな事をブログに書く事が間違ってる。
だけど、ホントにわからない。人間だとか、男だとか女だとか強いとか弱いとか、優しいとか冷たいとか立派だとかそうじゃないとか。
あの鼻水の理由を考える。
ほとぼりが冷めたら、彼女と話をしようと思う。
なべちゃん、これは、完全に君が悪いよー!!!!きちんと部屋を片付けなさい!普通に考えてなべちゃんの清潔感は劣ってるから!そこをもう少し成長させてください!
返信削除めっちゃめちゃ彼女やさしいやん。 私は彼女の気持ち分かるけんどな〜私は。 あんまり言いまかしたらいかんで、彼女あってのなべちゃんで。毎週来てくれてそれだけで、なんちゃ言えんやん。
(後ろで羊君がなべちゃんかわいそーって連呼してます。私がいろいろ言うけんね(笑))
そんないろんなタイプの喧嘩なんてうちらも日常茶飯事よ!別に気にしたらいかんやろ、そんなことで。好きながやし、お互い一緒におりたいがやけん、喧嘩もあってもえいし、そんなことで、一体俺の何が好きなが?!って存在が好きながに決まっちょうやん?!なべちゃんもそうやろ?!
まぁ〜、なべちゃんが、進化せんと女はついてこんぞ!!!反省しなさーい!
女をいいまかしても、なんちゃ良い事ないで。
ってのが私の意見で。
んで、
いやはや、なべちゃん、いつもお世話になっております。
ありがとうね!
がんばれなべちゃん!!なべちゃんなら、変われる!
>女をいいまかしても、なんちゃ良い事ないで。
返信削除これは真理。ソースはオレ。良い事ないものw
要は彼女を女と考えるか人間と考えるか。
返信削除話としてはそれだけのこと。
話としては…
人間として彼女をなべさんが見るのであれば、一緒にいても無益だと思う。
もちろん彼女が普通の意味で人間で無いという意味ではないが。
まぁ言いたい事はわかると思うけど。
えらいねえ
返信削除うん
がんばっちょう
なべちゃんえらい
彼女もえらい
がんばりすぎやあ
どっちも悪ない
どっちも良くない
だ〜れもな〜んもない
愛せば愛される
信頼すれば信頼される
なべちゃんは優しい
彼女も優しい
ニンニクとオクラありがとう
ケンカもうらやましいなあ♪
>まなちゃん&羊君
返信削除こないだはありがとー!大丈夫、部屋はそこそこ掃除しております。ちょっとした事でなっちゃうのねぇ…まぁ変わるには痛みと時間が必要なんよ。頑張ります
>sakaさん
そのとおりなんですよねぇ。
しかし何があったんですかwソースw
>bateau
理屈どおりに通せんのが辛いところよ。
不可思議ではあるけれど、そういうもんらしい。
>ミッカちゃん
君は優しいなぁw
そうやね、自分が悪いって思っても彼女のせいにしても、どちらにせよいかんのよ。えらくはないけど頑張るよ。ありがとう
>しかし何があったんですかwソースw
返信削除何があったも何も学生時代の彼女も含め20年来、女性に
対しては同じ事の繰り返しですよー。
一番近しい人なんだから、自分の思いや考えを過不足なく
伝えないと!などと語ってやりこめて、逆に理解されない
というねw
むしろ「まあゴキゲン損ねないようにてきとーに…」って
少し投げやりぎみ時の方がこっちのキモチも理解してもら
えて上手くいったりするという矛盾。
女性相手には聴きにまわった方が良いみたいですよ。
そして求められてるのは意見や解決策ではなく共感と
同情。私も苦手ですがwお互い修行しましょう!
>「馬鹿に?馬鹿にしてる?そういう人苦手だし、
>怖いだけよ」
すごくわかるw向こうもこっちを馬鹿にしてるだろうし、
別にいいんじゃないの?…って言いたいところだけど、
付き合ってみればウマが合う人もいるから、決め付け
(・A・)イクナイ!!と自戒を込めて。
まあ、口に出したら負けよw
>sakaさん
返信削除なんと的確な助言wこれホントそうですねぇ。しっかり修行します!
言わない方が良い事は言わない方が良いw