2011年2月10日木曜日

あずき

一昨年の九月。独りで寂しく過ごしてた僕に、隣人が「猫いらんかえ?」と声をかけてくれた。
その頃、初めて飼ってた仁って子猫が車に轢かれて死んでしまい、荒んだ生活をしてるのを気にかけてくれたようだ。即答して引き取る事にした。









次の日、運ばれて来たダンボールを開けると、目のクッキリしたキジ柄の猫がシャーシャー唸ってた。耳が大きくてキツネみたいだ。

♂だけど、野菜の名前が良いなと、名前は「あずき」にした。









よくイタズラをする子だった。
すぐに懐いてくれたけど、布団で一緒に寝てると戯れて爪先を噛んでくる。相手をしないと機嫌を悪くするのか布団の上にオシッコをする。眠れない日が続いた。









駆け回ってそこら中ひっくり返すもんだから家中メチャメチャで、襖やカーテンを登るもんだからボロボロ。それでも疲れたら必ず膝の上に乗って大人しく寝始める。夜はいつも一緒に布団で寝た。









最初はガリガリだったのに、ムクムクと大きくなりだす。首回りの厚みが違うぜ。









一緒に酒を飲んで酔い潰れたり









ダンボールでモグラ叩きみたいになったり









妙に艶かしかったり。

本当に人間みたいで、臆病だけど甘えん坊でドジで隙だらけ。
そんなあずきも、去年の春からは実家暮らし。きのこがウチにやってきたし、しばらく預けてたら家族(特に母)が溺愛してしまって、連れて帰れなくてそのまま。








すっかり立派な雄猫になってしまった。貫禄が違う。あっという間にテリトリーを拡げて実家周辺のボス猫になってしまった。最近では旬が来たのか彼女を連れ込んだり、二、三日帰らなかったり。実家でのあだ名は「キング」だった。









喧嘩でいつも爪はなくなってるし、後ろ脚をマムシに噛まれたり。最近では唇のあたりも毛がなくなったり、頭頂部禿げてたり、とにかく傷だらけ。綺麗な毛並みはベタベタしてたり。なんか祈ってるみたいだし。

こないだ撫でてたら初めて怒られたよ。後ろ脚痛かったのかね。お父さんショックだ。だけどその後、久しぶりに膝の上に乗ってゴロゴロ言いだすお前は、本当に人間の扱いがわかってる。憎いヤツだ。

昨日も朝方にフラッと帰って来て、餌をねだるのに起こされた。ガリガリに痩せてしまって…働き過ぎじゃないのか。削り節もサービスして、たんと食わせたら少しゆっくりして、またすぐに出て行った。しょーがないヤツだ。と思いながら何処かで誇らしい気持ちを感じていたり。

その、ほんの一時間後だ。

仕事中に母から電話がかかってきた。
「あずきが、車に轢かれて死んでしもうた…」

悪い冗談であるはずもなく、理解できないわけでもなく。ただ呆然と玉ねぎを収穫した。

あずきとの日々を思いだす。お前は、あの汚くて寒い部屋で、僕と一緒に居た。そうだ、居てくれた。どんなに辛い時も。それは下手な友人よりも、どんなに…

仕事でミスをして怒られた。細霧のコックを誰かが閉め忘れてて、葉面散布を半分無駄にしてしまったのである。
「信頼して任せちょうがやに、裏切るなよ」
裏切るとはなんであろうか。ちんたら仕事してる他のヤツに文句も言わず、黙々と1番キツい仕事ばかりやってきたやないですか。

たかだか数百円の損のために、そこまで言われなきゃならないのか。それは大事な事なのか。

コロコロ転がる。簡単に。

当然そんな文句は言えず、パチンコの話ばかりする同僚の声を遠くに感じながら、どこまでもつけあがる生意気な後輩にイライラしてた。

猿山のサルと一緒だ。力で押さえつけなきゃわからんのか。いかに頑張ってるか常にアピールしなきゃならんのか。正しさを主張しなきゃいけないのか。人間疲れる。めんどくさい。

あずき、お前はただ黙って側にいてくれた。それだけでどんなに救われたかわからない。





誰があずきを轢いた?
急いでいたからそのまま道に置いていたのか。「最悪」とツバを吐いてそのままにしたのか。考えると見つけだして殴り飛ばしたい憎悪が湧いてくる。

だけどあの臆病なお前がどうして轢かれるのか。やっぱり脚を痛めていたのか。ガリガリになるまで疲れきっていたからか。ああ、去勢してたらそんな事にはならなかったのか。ごめんなさい、ごめんなさい。

「ちゃんとしてください」はい。
「お金払ってください」はい。
「早く資料だしてください」はい。
「言われた通りしてください」はい。

簡単じゃないか。くだらないテレビを消すように、スイッチを一つ切れば良いんだ。だけど、そんな事をして何になると言うんだろう。

早く、帰りたい。

目眩がするほど綺麗な青空。




一目散に実家に帰った。あずきはソファーの上で眠っていた。頭を打ったようで外傷はない。いつものように、本当に寝てるだけみたいだ。
じーっと見てると、かけられたタオルが上下してるような錯覚。

だけど、抱き上げた身体はカチカチに固まっていて置物みたいだ。

最後に残ったのは、あずきの形と思い出だけだ。

もう、いない。








きのこが側で寝始める。命が輝いてる、煌めいてる。美しい。無くしたくない。失いたくない。

強くなる事は何も感じなくなる事か。
美しくなる事は透明になる事か。
幸せなんて何も考えない事か。

親父が静かに言った。「生き物は飼われん。これがあるけんいかん」
お父さん、それなら僕はもう誰とも会いたくなんてありません。

母が泣きながら言った。「身代わりやけん」
お母さん、それなら僕の代わりにあずきは死んだのでしょうか。確かに昨日はイライラしてどうにかなってしまいそうでした。僕がちゃんとしてれば、こんな事にはならなかったのでしょうか。

何を思えば良いんだろう。何が言えるのだろう。眠りたい。何も考えずに眠りたい。

別れの時に言えるのは、いつも「ありがとう」と「ごめんなさい」だけ。

さよなら、あずき。


4 コメント:

  1. himawari &das3Feb 10, 2011 03:20 AM

    「ありがとう」なんて言えやしない・・・「なんだよ、バカヤローッ!」って叫びたくなる・・・
    でも、出逢って、共に過ごしたひととき。あずきはあずきらしく生ききったんだよね、きっと。
    ・・・余計な事を言って、ごめん・・・

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  2. 誰も悪くない。もちろん君も。
    http://www.youtube.com/watch?v=dHOi42joZUg

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  3. 残念です。
    短い猫生でしたが、家族に可愛がられて幸せだったと思います。
    残されたきのことレタスを大切にして下さい。
    手術、終わってないのかしら?
    そういえば、ココアちゃんという彼女は、元気でいるのでしょうか?もしかして、あずきの子供が?
    残った猫ちゃんたちが、幸せでありますように。

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  4. ●himawari&dais3さん。
    余計な事なはず無いです!ありがとうございます本当に。そうですよ、そんなに物分かりよく「ありがとう」なんて言えません。「なんでなんだよ!」と怒鳴りたい気分です。だけどあずきは精一杯生きました。側に居てくれました。それだけは忘れずにいたいです。

    ●潮くん。
    シカオ!こんな曲があったなんて。今は反則やろー。誰かのせい、自分のせいにした方が楽なんだけど、それは違うんよね。ありがとう。

    ●とろさん。
    はい。きのことレタスを大事にします。まだ去勢してないけど、今回ばかりはしなきゃならんと思いました。ココアちゃん、ひょっとして子供がいるかもしれませんね。元気に餌を食いに来ています。どうなるやら…ありがとうございます。

    ●ブログみてくれた皆様。
    励ましの言葉くれた人、あずきのために泣いてくれた人、みてくれた人。みんなありがとう。

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